リスクと不確実性の違いとは?お金の不安が軽くなる考え方

『リスク』と『不確実性』は、日常ではほとんど同じ意味で使われますが、じつは経済学では明確に区別されています。ひとことで言えば——リスクは「起こる確率が前もって分かる」もの、不確実性は「起こる確率が前もって分からない」ものです。
この違いをはじめて明確に定式化したのが、経済学者フランク・ナイトでした。
この記事では、リスクと不確実性の違いをやさしく整理したうえで、なぜこの違いを知るとお金の不安が軽くなるのか、そして先の読めない時代にお金とどう向き合えばいいのかまで、「お金モテ®」の考え方をもとにお話ししていきます。
『リスク』と『不確実性』の違いとは?――フランク・ナイトの定義
私がMBAで学んでいたころ、この2つの言葉の違いに頭を悩ませたことがありました。似ているようで、じつはまったく別の概念として使われていたからです。
調べてみて分かったのが、この違いを明確に定式化したのが、20世紀前半に活躍したアメリカの経済学者フランク・ナイトだということ。彼は著書『Risk, Uncertainty and Profit(リスク、不確実性および利潤)』で、両者をこう区別しました。
- リスク……起こりうる事象が分かっていて、しかも、それが起きる確率も前もって分かっているもの
- 不確実性……起こりうる事象は分かっているが、それが起きる確率は前もって分からないもの
たとえば自動車事故は「リスク」です。毎日たくさんの人が車に乗るため、世界のどこかで日々事故が起きていて、その豊富なデータから「どのくらいの確率で起きるか」がおおよそ分かります。自動車保険は、この確率を土台につくられた金融商品の典型です。
一方、2001年の同時多発テロのような出来事は「不確実性」です。飛行機がビルに突っ込む可能性はゼロではありませんが、めったに起きないため、その確率を前もって知ることはできません。投資の世界でも同じで、過去のデータがある値動きは「リスク」として見積もれますが、これまで一度も起きたことのない事態は「不確実性」で、確率では測れないのです。
つまり——確率が読めるのが『リスク』、読めないのが『不確実性』。これが両者の決定的な違いです。なお、この読めないほうの不確実性は、提唱者の名をとって『ナイトの不確実性』と呼ばれることもあります。
リスクと不確実性は、「備え方」がまるで違う
この違いを知ると、日々の判断がぐっとラクになります。というのも、リスクと不確実性では、そもそも備え方がまったく違うからです。
リスクは、確率が読めるぶん、数字で管理できます。起こる可能性を見積もって、保険をかけたり、複数に分散させたりして、あらかじめ備えることができる。自動車保険や火災保険は、その代表例です。
いっぽう不確実性は、確率そのものが読めません。だから「確率を計算して備える」というやり方が通用しない。ここで大切になるのが、特定の何かを当てにするのではなく、何が起きても立て直せる「しなやかさ」を持っておくことです。ひとつの収入源だけに頼らない、ひとつの価値観だけにしがみつかない——そんな柔軟さのほうが、精密な確率計算よりずっと頼りになります。
ところが多くの人は、この2つを混同したまま、不確実性(読めないもの)に対してまで「もっと情報を集めて、正確に予測しよう」と力んでしまいます。でも、読めないものは、どこまでいっても読めません。不確実性に必要なのは、「予測の精度」ではなく、「変化への強さ」なのです。
私たちは今、「不確実性の時代」を生きている
先行きが不透明で、これまでの常識が通用しない。今の時代は、まさに『不確実性の時代』という言葉がふさわしいように感じます。これは経済学者ガルブレイスの著書のタイトルとしても有名な言葉です。
人生には3つの坂がある、とよく言われます。上り坂と、下り坂、そして——「まさか」です。そして、この「まさか」は、いつも予測できないかたちでやってきます。
この「まさか」を、経済学者ナシーム・タレブは『ブラックスワン』と呼びました。「白鳥は白い」という事実をどれだけ集めても、たった一羽の黒い白鳥が見つかれば、その常識は一瞬で崩れ去る。2008年のリーマンショックも、2011年の東日本大震災も、まさにその『ブラックスワン』でした。
「今までこれで大丈夫だったのだから、これからも大丈夫だろう」——じつは、この考え方こそ、不確実性の時代にいちばん危ういものなのです。昔は、嫌なことを我慢して山を登りつづければ、いつか頂上にたどり着けました。でも今は、登っている最中に、その山ごと消えてしまうことさえある時代なのですから。
なぜ「違い」を知ると、お金の不安が軽くなるのか
さて、ここからが本題です。この違いは、じつはあなたのお金の不安の正体と深くつながっています。
先が読めない不安から、多くの人はこう考えます。「お金さえあれば、この不安は消えるはずだ」と。そうして、必要以上に貯め込もうとします。
でも、ここに落とし穴があります。不確実性(まさか)は、そもそも確率を読めないもの。だから、お金をどれだけ貯めても、「まさか」そのものを消すことはできないのです。それどころか、「お金がなければ生きていけない」という一点だけに頼るほど、その一点が揺らいだときの不安は、かえって大きくなってしまいます。
つまり、お金の不安の本当の根っこは、金額の多い少ないではなく、「たったひとつのもの(会社・日本円・貯金)だけに依存している状態」にあるのです。
不確実性の時代の「お金のデザイン」――ストックからフローへ
では、どうすればいいのでしょうか。カギは、ストックからフローへという発想の転換です。
- ストック……貯め込んだお金や資産。一見安全に見えて、価値が変動し、時に一瞬で目減りする。
- フロー……お金を生み出し、めぐらせられる状態。ひとつの収入源に依存しない、変化に強い状態。
そもそも1万円札そのものの製造コストは、額面の1万円よりもずっと低いといわれます。「1万円の価値がある」と多くの人が思い込むことで、はじめて成り立っているのがお金というもの。その思い込みだけに人生を預けきってしまうのは、じつはとても心もとないことです。歴史を振り返ると、時代の転換期には、自ら価値を生み出さず資産の額だけに頼っていた人ほど、立ちゆかなくなることがあったといわれます。
だからこそ、貯め込んで守るだけでなく、お金がめぐる流れ(フロー)のなかに身を置くこと。それが、先の読めない時代の「お金のデザイン」の第一歩になります。
そしてお金モテの視点では、その流れをつくるのは、数字を追いかけることではありません。ただ貯め込まれて動かないお金は、誰の信頼も生まない『冷たいお金』(=信用から生まれる、数字のお金)のまま。けれど、人に喜ばれる使い方でめぐらせていくと、それは『温かいお金』(=信頼から生まれる、信頼残高のお金)へと変わり、人を通じてまた巡ってきます。ひとつに依存せず、信頼をめぐらせている人ほど、「まさか」に強いのです。
おわりに――未来は読めなくても、あり方は調えられる
不確実性の時代に本当に必要なのは、未来を完璧に言い当てることでも、お金を限界まで貯め込むことでもありません。「まさか」が訪れても大きく揺らがないように、自分の生き方とお金の流れを、少しずつ調えておくことです。
未来は、誰にも読めません。でも、あなた自身の『あり方』は、今日から調えていけます。お金とは、そのあり方を映してくれる鏡のようなもの。まずは今日ひとつ、「ひとつのものへの依存を少し減らす」か「お金を気持ちよくめぐらせる」——どちらか小さな一歩を、選んでみてください。
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